遺言と相続の関係

相続分や遺産分割方法の指定


相続で遺言があった場合、遺言に従うのが原則です。

遺言では、相続人の相続分の指定や、遺産分割方法の指定をすることができ、これらは相続人間での遺産分割に影響しえます。

その相続分の指定と遺産分割方法の指定についてご説明し、さらに、ほかの遺産分割に影響しうる遺言内容についてご案内します。


相続分の指定について


相続分の指定とは、遺言によって、共同相続人の全部または一部について、法定相続分の割合と異なった割合での相続分を定めることです(民法902条1項)。

そして、一部の相続人についてだけ相続分の指定があったときは、指定を受けなかった他の相続人は法定相続分に従うことになります(民法902条2項)。

また、相続債務の債権者は、相続分の指定がされた場合であっても、法定相続分に応じて権利行使することができ、ただし、共同相続人の一人に対して指定相続分に応じた債務の承継を承認したときはこの限りでないとされています(民法902条の2)。

なお、相続分の指定は、遺言によって第三者に委託することができます(民法902条1項)。

(後段 民法の関連規定へ)

遺産分割方法の指定について


民法908条1項は、遺言で遺産分割方法を指定できると規定しており、ただし、指定できる具体的な遺産分割方法は規定していません。

この点、本来は、現物分割か、競売による換価分割か、相続人の一人に財産を帰属させ他の相続人に対し債務を負わせる代償分割か、あるいは共有とするかを指定する意味とされています。

しかし、実際には、特定の財産について特定の相続人に「相続させる」という遺言をすることが多く行われています。

この「相続させる」という遺言について、判例は、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではなく、遺産分割方法の指定であるとしています(最高裁判所平成3年4月19日判決)。

なお、遺産分割方法の指定は、遺言によって第三者に委託することができます(民法908条1項)。

(後段 民法の関連規定へ)

遺産分割に影響しうる遺言内容


以上で述べた相続分の指定と遺産分割方法の指定のほかに、遺産分割に影響しうる遺言の内容としては、例えば以下のものがあります。

遺贈

包括遺贈と特定遺贈(民法964条)について、以下のページで解説しています。

特別受益者の持戻しの免除

遺言によって、特別受益者の受益分を遺産に持戻す必要がないという意思表示をすることができます(民法903条3項)。
生前贈与や遺贈を特別な取り分として与えようとする被相続人の意思を尊重するものとされています。
特別受益については、以下のページになります。

遺産分割の禁止

遺言によって、相続開始の時から5年を超えない期間を定めて遺産の分割を禁ずることができます(民法908条1項)。

(後段 民法の関連規定へ)
ただし、共同相続人全員の合意があれば、分割を実行することができるとされています。

相続人の廃除

遺言による推定相続人の廃除(民法893条)について、以下のページで解説しています。

遺言が有効か無効かの問題

遺言は、民法の方式に反していた場合や、遺言者の判断能力に問題があった場合(例えば認知症)など、無効とされる場合があります。
遺言が有効か無効かの問題は、遺言者が死亡して相続が開始した後、相続人間で生じる争いです。
裁判所に訴えを起こして、有効か無効かを判断してもらうことになります。


民法の関連規定

相続分の指定・遺産分割方法の指定に関する民法の主な規定を掲載します。

民法902条(遺言による相続分の指定)

  1.  被相続人は、前2条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
  2.  被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前2条の規定により定める。

民法902条の2(相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使)

被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。

民法908条(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)

  1.  被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
  2.  共同相続人は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。
  3.  前項の契約は、5年以内の期間を定めて更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。
  4.  前条第2項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。
  5.  家庭裁判所は、5年以内の期間を定めて前項の期間を更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。

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 相続で遺言があった場合

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このページの著者

 弁護士 滝井聡
  神奈川県弁護士会所属
    (登録番号32182)